「何個売れば赤字にならないか」——この問いに即答できる経営者はどれくらいいるでしょうか。損益分岐点分析は、固定費・変動費・売上の関係を整理し、「最低限必要な売上高・販売数量」を明らかにする経営ツールです。価格改定・設備投資・新商品開発の意思決定に直接活用できます。
固定費と変動費を分ける
損益分岐点を計算するには、まずコストを2種類に分類します。
| 区分 | 特徴 | 食品工場の例 |
|---|---|---|
| 固定費 | 売上がゼロでも発生するコスト | 賃料・リース料・正社員人件費・減価償却費・保険料・水道光熱費 |
| 変動費 | 売上(生産量)に連動して増減するコスト | 原材料費・包材費・パート労務費 |
損益分岐点売上高の計算式
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
限界利益率 = (売上高 − 変動費) ÷ 売上高
= 1 − 変動費率
計算例:お惣菜製造業A社の場合
【月次データ】
売上高 :5,000,000円
変動費(原材料・包材・パート費):2,750,000円
固定費(賃料・正社員・減価償却・人件費):1,800,000円
【計算】
限界利益 = 5,000,000 − 2,750,000 = 2,250,000円
限界利益率 = 2,250,000 ÷ 5,000,000 = 45%
損益分岐点売上高 = 1,800,000 ÷ 0.45 = 4,000,000円
→ 月商400万円を超えれば黒字、下回ると赤字
損益分岐点を「販売個数」に換算する
売上高より「何個」で考えた方が現場に伝わりやすい場合は、以下で換算します。
損益分岐点販売個数 = 固定費 ÷ 1個あたり限界利益
1個あたり限界利益 = 販売価格 − 1個あたり変動費
例:販売価格200円、変動費110円の製品
1個あたり限界利益 = 200 − 110 = 90円
損益分岐点個数 = 1,800,000 ÷ 90 = 20,000個/月
→ 月2万個を超えれば黒字
損益分岐点分析の3つの活用場面
① 値上げ・値下げの影響シミュレーション
販売価格を変えると限界利益率が変わり、損益分岐点も動きます。
| 販売価格 | 変動費 | 限界利益率 | 損益分岐点売上高 | 変化 |
|---|---|---|---|---|
| 200円(現状) | 110円 | 45% | 400万円 | — |
| 210円(+5%値上げ) | 110円 | 47.6% | 378万円 | ▲22万円改善 |
| 190円(−5%値下げ) | 110円 | 42.1% | 427万円 | △27万円悪化 |
わずか5%の値下げで損益分岐点が27万円も悪化します。値引き競争がいかに危険かが数字で見えます。
② 設備投資の採算判断
新設備を導入すると固定費が増加します。その分、損益分岐点も上昇します。
新設備(月リース料10万円追加)導入後
固定費:1,800,000 + 100,000 = 1,900,000円
損益分岐点売上高:1,900,000 ÷ 0.45 = 4,222,222円
→ 新設備を正当化するには月商422万円以上が必要
現状400万円なら「22万円以上の売上増効果」が必要条件
③ 新商品開発の最低販売目標の設定
新商品専用の固定費(開発費・専用ライン)を設定し、「その商品だけで何個売れば元が取れるか」を算出します。社内の意思決定・GO/STOP判断の基準になります。
損益分岐点比率で経営の安全度を確認する
現状の売上高と損益分岐点の距離を「安全余裕率」で確認できます。
安全余裕率 = (売上高 − 損益分岐点売上高) ÷ 売上高 × 100
例:売上高500万、損益分岐点400万
安全余裕率 = (500万 − 400万) ÷ 500万 × 100 = 20%
目安:
・20%以上 → 安全(売上が20%落ちても黒字)
・10〜20% → 注意(コスト上昇に弱い)
・10%未満 → 危険(すぐに赤字転落リスク)
まとめ:損益分岐点は「経営判断のものさし」
損益分岐点分析は、難しい財務知識がなくても固定費・変動費・売上高の3つを把握すれば計算できる実用的なツールです。毎月の数字を更新するだけで、値上げ交渉・設備投資・コスト削減のどれを優先すべきかが明確になります。
自社の損益分岐点の計算・分析についてお気軽にご相談ください。